はじめに
パワー半導体であるSiC MOSFETのディスクリート品では、ソース・ドレイン・ゲートの3端子のほかに、ドライバソース端子もしくはケルビンソース端子の4番目の端子を設けて4端子のパッケージとしている製品がある。このケルビンソース端子が有効な理由の説明では、寄生インダクタンスの影響を低減させ、スイッチング特性を改善できると説明されている。
4端子パッケージを採用したSiC MOSFET : SCT3xxx xRシリーズ:4端子パッケージを採用した理由
4端子パッケージを採用したSiC MOSFET : SCT3xxx xRシリーズ:4端子パッケージを採用した理由 | TechWeb
また、IGBTについても同様に、インダクタンスの影響を減少させられる旨の説明がされている。
ケルビンエミッタパッケージ構成
https://www.infineon.com/cms/jp/product/power/igbt/igbt-discretes/latest-discrete-packages/to-247-4pin/
ここで気になるのは、寄生インダクタンスによる影響があるはずだが無視して良いか、という点である。解説中には特に見つけられなかったのでソースの寄生抵抗と寄生インダクタンス)による電圧を概算して、寄生インダクタンスの影響が大きいと計算されたので報告する。
インダクタンスと抵抗の影響の見積
計算の方針
・ソース(もしくはエミッタ)の寄生インダクタンスによる電圧
電圧
・寄生抵抗 による電圧
を見積もる。パッケージはTO-247が元になっているので、とりあえず同じとして計算することとする。
寄生インダクタンス
SiC MOSFETが入ったTO-247パッケージのインダクタンスをネットワークアナライザでSパラメータを測定し、算出している論文があるので、この値を借用する。
TO-247のソースインダクタンスは下記(TABLE II)で7.489nHと報告されているので丸めて7.5nHを用いる。
Inductances of SiC Power MOSFETs in Discrete and Module Packages Based on Two-Port S-Parameters Measurement
https://ieeexplore.ieee.org/document/8245833
寄生抵抗
ソース抵抗はRDS(on)が30mΩであることを用いる。
抵抗成分はパッケージの影響とチップの影響とに分けれられると考えられる。言い換えると、ドレイン端子、チップ、ソース端子の3つに分けられると考えられる。1/3にしてソース端子の分は高々10mΩと推定する。パッケージの寄与はおそらくはもっと低いと推定されるが、ここでは寄生抵抗の影響が無視できるかどうかを気にしているので、大きめの見積値で話を進める。
N-channel SiC power MOSFET SCT3030AR
https://fscdn.rohm.com/en/products/databook/datasheet/discrete/sic/mosfet/sct3030ar-e.pdf
電流について
はダイオードの仕様に記載されているdi/dt=2500A/usを拝借する。
また、電流はID=27Aを計算に用いる。
寄生インダクタンスの影響、寄生抵抗の影響
上述の数字を用いて、下記のように計算される。
・寄生インダクタンスによる電圧は、7.5nH * 2500A/us = 18.75V。
・寄生抵抗による電圧は、27A * 10mΩ = 0.27V。
寄生インダクタンスの影響の方が約70倍(=18.75/0.27)なので、寄生インダクタンスのみがほとんどであることが分かった。
よって、スイッチング動作時の解釈にあたっては、ソースが寄生抵抗は小さく、寄生インダクタンスのみで議論しても良いと考えられる。